職場の人間関係に困難

ご紹介の症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

人との違いがわかってきたら「自分感」がアップし余裕が生まれた

盛岡さん(仮名)の場合 20代女性(ADHD治療経過 約7 ヵ月)

20代女性

社会人になり、仕事や職場の人間関係でさまざまな困難を感じるようになった盛岡さん(仮名・20 歳代)は、自ら発達障害を疑い、病院を受診しました。
ADHDの治療を開始してからは、落ち着いて仕事に取り組めるようになり、これまで手をつけられなかったことも「少しずつでもやってみよう」と思えるようになったと言います。

状況を改善できるなら何でも!という気持ちで治療をスタート

Q.発達障害とわかったのはいつですか?

勤め始めてからです。仕事を通じて情報が入ってきやすい環境にあり、自分でも思い当たるところがあったので病院へ行きました。ADHDの診断を受けてからは、しばらく療育センターに通わせてもらっていました。

それでもなかなか仕事がうまくいかず、精神的に落ち込んでしまっていたら、療育センターの医師から選択肢の一つとして服薬もあると言われました。本当に困っていて、できることなら何でもしたかったので、治療のために上田先生のもとへ通院することを決めました。

Q.職場ではたとえばどのようなことで困っていましたか?

まず、いろいろな人から仕事のことを言われても、それがアドバイスなのか指示なのかわからなくて固まっていると、「どうしてやらないの?」と言われてしまうことがよくありました。先生の指示どおりにできれば評価がついてきた学校とは、そこが大きく違っていました。

職場の環境にもなじめませんでした。みんなが仕事をしている中で電話を取ると、聞かれていると思ってうまく対応できなくなったり。

自分で計画を立てて仕事を進めていくのも大変でした。時間の使い方が下手で、上司からよく「時間もお金だから」と注意されました。何か一つの仕事をしている間に割り込みがあると、とっさに「やります」と言ってしまうのですが、それが小さな仕事でも、億劫でしかたなくて、サッとはできないんです。

他にも、鍋を火にかけながら別のことをしていて吹きこぼす、タイムカードを押し忘れるといった注意欠陥に起因するトラブルもありました。忘れ物も多く、自分なりの解決法として何でも全部持つことにしたら、荷物が大きくなって周りから迷惑がられたり……。

Q.人を指導する仕事もあったそうですね?

1回の対象者は数人なのですが、みんなに気を配りながら、楽しい雰囲気で教えるということが苦手でした。その上、対象者の様子などを後から職場で報告しようにも、何も覚えていないことさえありました。

勤め始めてからの困り事が、子どもの頃に困っていたこととあまりにも異質で、疲れました。職場の人たちは、慣れないうちは誰でもそうだと言ってくれたのですが、自分では、時が経てばできるようになるとはとても思えなかったんです。

苦手なことや人との違いがわかり作戦を立てやすくなった

Q.子どもの頃にも思い当たる出来事はありましたか?

毎日の家庭学習はマジメに提出していたのですが、夏休みのような長期の休みになると、計画的に宿題を処理するということができなかったです。勉強が嫌いなわけではないのに、と親は不思議がっていました。後片付けもできませんでしたが、学生のうちは片付けられなくても特に誰かに迷惑をかけるようなことではないので、たいした問題だとは思っていませんでした。

物を借りると返し忘れるとか、それ以前に、借りた物を壊してしまって新品で買って返すなどということもありました。そんなことが度重なり、今では、人から借りるのはもうやめようと決めています。

Q.ご家族との関係はいかがでしたか?

母からは、ふつうの人が当たり前にできること、特に生活に関わることについては、口うるさく注意されました。どんなに言われても、自分にはできない感じが強くあって、母の言うとおりにできない自分への罪悪感もありました。母は私のことが嫌いなのだと思っていました。

地に足を着け余裕をもって人と向き合えるように

Q.ADHDと診断されたときは、どのように感じましたか?

ホッとしましたし、腑に落ちました。作戦を考えやすくなったかもしれません。
ADHDの方が書いているブログを見つけて読むようになったのですが、同じようなことで悩んでいるのがよくわかります。

Q.治療が始まってから、職場ではどのような変化がありました

机に座ったときに周りのことが気になりにくくなりました。安心感がもてるようになり、自分の仕事のことを考えられる時間ができました。

片付けにも手をつけられるようになりました。前は、あまりにもひどくて、どうせできないからやらないという感じだったのが、今日全部できなくても残りは明日やればいいと思えるようになったんです。

Q.ご家族や友だちとの関係は変わりましたか?

母が言うには、私が母の話をよく聞くようになったそうです。以前は頭の中にいろいろな悩み事が詰まっていて、何か言われると、パーン!と言い返してしまっていました。でも今は、心に余裕ができたので、何か言われても相手の状況に配慮しながら、少し間をおいて対応できるようになったような気がします。たとえば片付けるように注意されたとしても、「それは私には難しい」「時間がかかる」というふうに、言われたとおりにできない理由を伝えられるようになりました。

友だちに対しても、前は「会いたくない」と思っていたのですけど、今は「会わなくても仕方ないかな」というふうに変わってきました。

「自分感」がアップしたんですよね。地に足が着いている感じがします。

Q.もっと早く子どもの頃にわかっていたら……と思うことはありましたか?

私自身はたぶん、今とそれほど変わらなかっただろうと思います。でも親は、私の怒りや悲しみが理解できなくて困ったこともあったらしいので、もっと早くわかっていたら……と思っているかもしれません。

自分を受け入れると人のことも受け入れやすくなる

Q.ご自身の経験を踏まえて、同じ障害をもつ人へのアドバイスはありますか?

診断を受けて私は、自分が人と違うということを受け入れやすくなりました。そうすると、第三者のことも違うという前提でみられるので、受け入れやすくなります。

ADHDのためにできないことが、ふつうの人なら当たり前にできることなので、申し訳ないような気持ちになることもあるかもしれませんが、ただそれは、違うということなんだと今は思います。違うというだけで、自分が悪いわけではないことを知ってほしいと思います。

Q.これからどんな生き方がしたいですか?

幼い頃から人の役に立ちたいと思い続けてきました。今も、何か少しでも、人の力になれたらいいなと思っています。そのために自分も、自分自身の力になりたいな、元気でやっていきたいなと思います。

監修:
もりおか心のクリニック 院長 上田 均 先生

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